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生保税務 個人編

取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度

Q:取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度とはどのような内容のものですか。

A:中小企業の経営の承継において、後継者が先代経営者から自社株を相続した際に発生する相続税額の一定割合について、定められた要件を満たす場合に納税を猶予するという内容です(2008年(平成20年)10月1日以降の相続を対象)。中小企業の円滑な経営の承継を実現するために設けられた制度です。
(注)以下の記載内容は、「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」の一般規定に基づくものであり、特例の内容については「事業承継税制の特例」を参照。

「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度(以後、「相続税の納税猶予制度」)」とは、相続等によって後継者(経営承継相続人)が経営者(先代経営者)から自社株を取得する場合、発行済株式総数の3分の2を上限に、後継者が納付すべき相続税額のうち自社株の相続等にかかる課税価格の80%に対応する相続税額について納税を猶予するというもので、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(2008年(平成20年)10月1日より施行、以後「経営承継円滑化法」)」および平成21年度税制改正により新たに設けられました。

この制度の適用の対象となるのは、上述の通り「発行済株式総数の3分の2」に達するまでの部分に限られ「特例適用株式」と呼ばれます。この特例適用株式は既に後継者が保有している自社株を含めて発行済株式総数の3分の2に達するまでの部分であり、その範囲を上限として相続等によって取得した自社株の課税価格の80%に相当する相続税額が納税猶予となります。

■「相続税の納税猶予制度」適用のための認定要件

以下の認定要件について経済産業大臣の認定を得ることにより適用可能となります。
(原則として納税猶予対象株式等のすべてを担保に供する)

  1. 経営者(先代経営者)の要件
    ・ 同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有
  2. 後継者の要件
    ・ 会社の代表者であること
    ・ 直前に会社の役員であること(先代経営者が60歳未満で死亡の場合を除く)
    ・ 後継者と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超を保有し、かつ同族内で筆頭株主となること
  3. 会社(認定対象会社)の要件
    ・ 経営承継円滑化法で定める「中小企業者」であること(特例有限会社、持分会社も対象。医療法人は対象外)
    ・ 非上場会社であること
    ・ 資産管理会社に該当しないこと
    ・ 風俗営業会社に該当しないこと

■納税猶予継続のための要件

認定後5年間において、納税猶予制度適用のための認定要件および事業継続要件を満たせなくなった時点で納税の猶予が打ち切られ、猶予税額および法定申告期限に遡っての利子税を一括して納付しなければなりません。また、5年経過後も下記の要件を満たすことが必要です。

  1. 1認定後5年間における事業継続要件
    ・ (後継者が)代表者であること
    ・ 雇用の8割以上を維持すること(5年間の平均)
    ・ 対象株式を継続保有していること
  2. 5年経過後の要件
    ・ 納税猶予の対象となる株式を譲渡した場合、その割合に応じて納税猶予が打ち切られる
    ・ 経済産業大臣の認定の有効期間(5年間)の経過後に納税猶予税額を納付する場合、当該期間中の利子税は免除される
     (5年経過後においては納税猶予の対象となる株式を継続保有すれば納税猶予も継続される)

■猶予税額の免除要件

納税猶予された税額については、以下の場合に納税が免除されます。

  1. 認定後5年以内
    ・ 後継者が相続等により取得した納税猶予の対象株式を継続保有したままで死亡した場合
  2. 5年経過後
    後継者が相続等により取得した対象納税猶予の株式を継続保有をしていて、以下の場合には猶予税額が納税免除される
    ・ 後継者が死亡した場合
    ・ 会社が破産または特別清算した場合
    ・ 対象株式の時価が猶予税額を下回る中、その株式の譲渡を行った場合(ただし、時価を超える猶予税額のみの免除)
    ・ 次の後継者に対象株式を一括贈与した場合

■猶予税額の計算について

猶予税額の計算は以下の方法によって計算されます。

  1. 通常の相続税額計算を行い、各相続人の相続税額を算出する(ア)
    (後継者以外の相続人の相続税額はここで求められる)
  2. 後継者が、「特例適用株式等」のみを相続するものとして計算した相続税額を算出
    する(A)
  3. 後継者が「特例適用株式等」の20%のみを相続するものとして計算した相続税額を
    算出する(B)
  4. 猶予税額=(A)-(B)となる
      *後継者の実際の納付税額は、[(ア)-猶予税額]となります

【事例】
被相続人の財産は6億円。配偶者なし。相続人は子供3人A(後継者)・B・C。
相続財産を次のように分割
後継者A=4億円(うち自社株2.5億円含む。なお自社株は議決権総数の2/3未満)、
相続人B=1億円。相続人C=1億円 

① 通常の相続税額計算

相続税額計算

6億円-遺産に係る基礎控除(3,000万円+600万円×3人)=55,200万円
55,200万円÷3=18,400万円
18,400万円×40%-1,700万円=5,660万円・・・相続人1人当たりの相続税額
相続税総額=5,660万円×3人=16,980万円

各人の相続税額

A=16,980万円×(4億円/6億円)=11,320万円・・・・・①
B=16,980万円×(1億円/6億円)=2,830万円(相続税額が確定)
C=16,980万円×(1億円/6億円)=2,830万円(相続税額が確定)
ここで相続人BとCの相続税額は確定

② 後継者以外の相続人の取得財産は不変とした上で、後継者が、通常の課税価格 による特例適用株式等のみを相続するものとして計算した場合の後継者の相続税額。

後継者Aは4億円のうち自社株2.5億円のみを相続し、その他の相続人の相続財産は不変=そのままB・Cは1億円ずつ相続したとして計算した場合の、後継者Aの相続税額を計算。
合計相続財産=A2.5億円+B1億円+C1億円=4.5億円

相続税額計算

4.5億円-(3,000万円+600万円×3人)=40,200万円
40,200万円÷3=13,400万円
13,400万円×40%-1,700万円=3,660万円
相続税総額3,660万円×3人=10,980万円

Aの相続税額

A=10,980万円×(2.5億円/4.5億円)= 6,100万円・・・・・②

③ 後継者以外の相続人の取得財産は不変とした上で後継者が課税価格を 20%に 減額した特例適用株式等のみを相続するものとして計算した場合の後継者の相続税額。

後継者Aは自社株2.5億円の20%のみを相続し、その他の相続人の相続財産は不変=そのままB・Cは1億円ずつ相続したとして計算した場合の、後継者Aの相続税額を計算。
合計相続財産=A(2.5億円×0.2)+B1億円+C1億円=2.5億円

相続税額計算

2.5億円-(3,000万円+600万円×3人)=20,200万円
20,200万円÷3≒6,733万円
6,733万円×30%-700万円≒1,320万円
相続税総額 1,320万円×3人=3,960万円

Aの相続税額

A=3,960万円×(5,000万円/2.5億円)= 792万円・・・・・③

④ この差額(②-③)を、後継者の猶予税額とする。

① 本来の後継者の税額・・・・・・・・11,320万円
② 後継者が自社株のみを相続した場合の税額・・・・・・・6,100万円
③ 後継者が②の自社株の20%のみを相続した場合の税額・・・792万円

納税猶予額= ②-③   6,100万円 - 792万円 = 5,308万円・・・・・④

以上から、①により算出した後継者の相続税額からこの猶予税額を控除した額(①-④)が後継者の納付税額となる。

実際の納付税額= ①-④  11,320万円-5,308万円=6,012万円

以上が納税猶予税額の計算方法です。

2023.04.01 (栗原)