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No.4397 在籍型出向で雇用を守る

● 中小企業も在籍型出向を活用できる?

 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、事業の一時的な縮小などを行う企業が、人手不足などの企業との間で「在籍型出向」を活用し、従業員の雇用維持を図る取り組みを行っている。大企業だけでなく、中小企業においても活用が進みつつあり、そのような事例も増えてきている。

 コロナ禍における厳しい環境の中で雇用維持をすべく在籍型出向を検討したい事業主は多いようだが、何から始めたらいいかわからないという声を聞く。厚生労働省では、動画やリーフレット、ハンドブックなどを作成して支援しているのでこれらの活用をお勧めしたい。

● 従来の出向と籍在籍型出向では何が違う?

 いわゆる出向とは、労働者が出向元企業と何らかの関係を保ちながら、出向先企業と新たな雇用契約関係を結び、一定期間継続して勤務することをいう。このうち、在籍型出向は、出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結ぶものをいう。

 出向元に在籍したまま出向先で勤務する形になるので労務管理も複雑になるが、上手に活用することで出向元、出向先、出向する労働者にもメリットがある。制度そのものを基本的事項から学び、支援機関や助成金制度などを積極的に活用することが大事であるが、出向規程や会社間の出向契約書、出向者への通知書など事務的な部分もとても大事になってくるので、社会保険労務士等の専門家にアドバイスを求めるのもよいだろう。

● 出向する労働者へのフォローは大切

 在籍型出向の例としては、新型コロナウイルスが同業種の企業の景況に影響を与えていることから、異業種の企業へ出向している事例が比較的多くあり、異業種であっても、仕事の内容に親和性があるケースが多いように見受けられる。大企業だけでなく、規模の小さな企業でも出向に取り組んでいる事例は少なくない。人手不足の業種にとってこのような機会を有効活用しない手はないだろう。

 『在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(第2版)』の事例では、飲食サービス業から警備業、宿泊業から飲食料品小売業(コンビニ)、旅行業から児童福祉事業(保育所)などのケースが紹介されており、出向にいたるまでの背景なども含めて詳細に記載されているためイメージがつかみやすい。

 出向元の声の例として《在籍型出向では労働者が他社で勤務することで、休業しなくてよいため、良い刺激となり、事業主・労働者にとって不安が軽減された。》といった前向きな感想が、出向先の声の例として《正社員としての人手不足が解消でき自社従業員の業務負担を軽減できた。》といった受入れ効果なども掲載されている。

 双方にとって良い形になればベストであるが、やはりそこには労働者があってのことなので、出向者には出向の目的及び労働条件を正確に伝え、その後も出向元企業から定期的にフォローすることを忘れてはならない。

 在籍型出向を実施した企業によると、出向の相手先は、もともと取引関係のある企業であった場合が約半数、公的機関からの紹介による場合が2割程度。社長どうしが知り合いというケースも多い。

 公益財団法人産業雇用安定センターでは出向のマッチング支援を無料で行っているので、中小企業の事例や在籍型出向を実施するうえで気になる点などを聞いてみるのもよいのではないか。

参照:在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(第2版)

2022.12.05

庄司 英尚(しょうじ・ひでたか)

株式会社アイウェーブ代表取締役、アイウェーブ社労士事務所 代表
社会保険労務士 人事コンサルタント

福島県出身。立命館大学を卒業後、大手オフィス家具メーカーにて営業職に従事。その後、都内の社会保険労務士事務所にて実務経験を積み、2001年に庄司社会保険労務士事務所(現・アイウェーブ社労士事務所)を開業。その後コンサルティング業務の拡大に伴い、2006年に株式会社アイウェーブを設立。企業の業績アップと現場主義をモットーとして、中小・中堅企業を対象に人事労務アドバイザリー業務、就業規則の作成、人事制度コンサルティング、社会保険の手続き及び給与計算業務を行っている。最近は、ワーク・ライフ・バランスの導入に注力し、残業時間の削減や両立支援制度の構築にも積極的に取り組んでいる。

公式サイト http://www.iwave-inc.jp/
社長ブログ http://iwave.blog73.fc2.com/